_ クイール


クー、いっしょに歩こう--
たくさんの愛に包まれた一匹の盲導犬の感動の物語


 今、一匹の犬が、日本中の人々の心に温かな感動を運んでいます。犬の名前はクイール、実在したラブラドール・レトリーバーの盲導犬です。クイールの生涯を優しさに満ちたモノクロームの写真と文章で綴った、ノンフィクション絵本とも言うべき「盲導犬クイールの一生」(文藝春秋刊)が、子供から大人まで世代を超えた幅広い層に支持されてベストセラーとなり、現在70万部を突破しています。さらに今夏にはNHKでTVドラマ化され、高視聴率を記録しました。そしてついに2004年春、クイールは映画になって私たちの元へと駆けて来ます!

 母親は普通の家庭犬だったクイールですが、盲導犬になるため母の元を離れ、パピーウォーカーと呼ばれる育ての親に預けられます。彼らの愛情を全身に浴びて、元気いっぱい無邪気に駆け回る子犬時代を過ごしたクイールは、1歳の誕生日を迎えると、育ての親とも別れて訓練センターに入ります。のんびり屋でマイペースのクイールでしたが、やがて使用者=パートナーとなる一人の男性とめぐり逢います。おっとりしたクイールと最初は盲導犬を拒否していたパートナー。全く息の合わない一人と一匹が、ある出来事をきっかけにお互いだけを頼りに一緒に歩き始めます。それはまさに人生のパートナーとしての第一歩でした。クイールと歩くと風を感じる。クイールを通して空が見える。生きていることの喜びを取り戻したパートナーとクイールの心の絆は、日に日に深まっていきます。しかし、悲しい別れが突然やってくるのでした……。

 盲導犬として生きる毎日の中で、クイールが経験した様々な出会いと別れ。出会いが幸せであればあるほど、別れは胸に迫ります。避けられない運命に人は傷つき、時には心を閉ざしてしまいます。しかしクイールは出会った人たちに尽きることのない無償の愛と信頼という贈り物をそっと差し出すのでした。クイールには生まれた時から、脇腹に鳥が羽を広げたような不思議なブチ模様がありました。それは、もしかすると幸せの使者の印だったのかもしれません……。

 監督は、キネマ旬報ベストテン作品賞、監督賞、報知映画賞、日刊スポーツ映画賞など53もの映画賞に輝いた「月はどっちに出ている」、ブルーリボン賞監督賞をはじめ各賞を受賞した「刑務所の中」などを手がけ、深い人物描写で定評のある日本映画界の鬼才・崔洋一。映画でしか描けないクイールの物語をスクリーンいっぱいに見せてくれます。




クイール、君と歩くと生きていることがこんなにもいとおしい

 東京のとある家で、5匹のラブラドール・レトリーバーの子犬が誕生しました。中に一匹だけ、ひと目で見分けられる子犬がいます。わきばらに鳥が羽を広げたような不思議なプチ模様があるその子犬に「ジョナサン」と名付けた水戸レン(名取裕子)は、子犬たちを父犬と同じように盲導犬にしたいと願っていました。両親とも盲導犬でなければ難しいのですが、レンに頼まれた訓練士の多和田悟(椎名桔平)は、一匹だけならと渋々承知します。多和田のアドバイスでレンは、いつもひと呼吸遅い、おっとりしたジョナサンを選びます。反応が早く感情表現が豊かな犬は盲導犬に向いていないのです。

 レンや母犬と別れて抗議するように鳴くジョナサンを、多和田はボランティアで子犬を育てるパピーウォーカーの元へと連れて行きます。京都郊外に住む仁井勇(香川照之)と三都子(寺島しのぶ)の夫妻です。多和田は夫妻に、何があっても絶対に叱らないでほしいとだけ言い置いていきます。ジョナサンは“鳥の羽根”という意味の「クイール」という新しい名前をもらいます。

 三都子のサンダルを振り回し、網戸を破り、いたずら盛りのクイールの大のお気に入りは、噛み付くと「ピー!」と鳴るクマのオモチャでした。やがて、お散歩デビューを果たしたクイールは、たちまち街のアイドルに。三都子は桜の樹や鳥、ヘビにまで興味を示すクイールに一つ一つ説明してやるのでした。楽しい日々はまたたく間に過ぎていきます。パピーウォーカーが預かるのは1歳の誕生日まで。最後の日、クイールとの長い散歩の途中、公演のベンチで涙ぐむ三都子に口を開けて“笑いかける”クイール。多和田の車の荷台に乗せられたクイールが仁井家を遠ざかっていきます。多和田に抗議するように低く鳴くクイールの瞳には、豆粒のように小さくなっていく夫妻の姿が映っています。クイールはただ寂しそうに鼻を鳴らすしかありませんでした。

 盲導犬訓練センターでの生活が始まりました。クイールは天真爛漫なマイペース振りを発揮、他の犬たちが着々と段差や障害物を伝えることを覚えていく中、クイールだけが取り残されていました。やはり血は争えないのでしょうか。たくさんの優秀な盲導犬を育て上げてきた多和田ですら諦めかけた時、彼はクイールの特別な才能を発見します。「ウェイト」と言われると実にのんびりそこに、何時間でも動かずにいるのです。

 ついにクイールのパートナーが決定します。「犬に引っ張られるくらいなら寝ていた方がまし」だと盲導犬を断固拒否していた渡辺満(小林薫)です。しかし、多和田の半ば強引な勧めでクイールと歩いたことがきっかけで、自らクイールを希望したのです。視覚障害者と犬との合宿による「共同訓練」が始まりましたが、犬とうまくコミュニケートできなくて、つい杖を使ってしまう渡辺とクイールの呼吸はなかなか合いませんでした。それでも少しずつ渡辺を思いやるクイール。ある夜、街中で“自主トレ”中にふとしたことから心の鎧を取り払った渡辺は、初めてクイールだけを頼りに歩き出します。渡辺の呼吸を感じとるクイール。やがて、路面に伸びる一人と一匹の月影が、少しずつ寄り添っていきました。

 妻・祺子(戸田恵子)と二人の子供の渡辺家にクイールが加わった日から、渡辺の行動範囲はどんどん広がっていきました。街に出れば、人の声が、花の香りが、吹く風が心地良い。クイールと歩けば、生きていることが、こんなにもいとおしい。しかし、ある日突然、予想もしない別れがやってきました……。


キャスト_ 小林 薫/椎名桔平/香川照之/戸田恵子/寺島しのぶ/黒谷友香/名取裕子
監 督_ 崔 洋一
備 考_ 原作:「盲導犬クイールの一生」/写真:秋元良平/文:石黒謙吾(文藝春秋刊)/製作:松竹・テレビ東京・テレビ大阪・衛星劇場・日販/配給:松竹
公 開_ 3月13日(土)より、全国松竹・東急系にてロードショー
公式サイト_ http://www.quill.jp/


_Movie Information Dondetch_