_ マザー・テレサ


「私は最も貧しい人々のそばにいたい」。
白に青い線の入った簡素なサリーに身を包んだ彼女は、
ただその思いだけを胸に、波乱に富む87年の生涯を生き抜いた。


 彼女の名は、マザー・テレサ。小さな身体に秘めた鋼のように強い意志と、海のように深い愛の力で、不可能を可能にする数々の奇跡を成し遂げた女性。その真実の物語が、いま、スクリーンで新たな感動を呼び起こす。

 マザー・テレサを演じるのは、フランコ・ゼフィレッリ監督の名作『ロミオとジュリエット』のジュリエット役で世界中の映画ファンを虜にし、「映画史上、最も若く美しいジュリエット」と謳われた伝説のスター、オリビア・ハッセー。あれから35年、清楚な美しさはそのままに、大女優の風格を増した彼女は、36歳から87歳までのマザー・テレサを渾身の力で演じきり、見る者の胸を熱い感動の涙で満たす。

 そこに描かれるのは、ひたむきに、頑固に、ときには命懸けで、自分自身の信じる道を歩み続けた一人の女性<マザー・テレサ>の勇気ある姿だ。カルカッタの恵まれたカトリック・スクールで教鞭をとる生活を長年続けたのち、聖職剥奪の危機に直面しながら、修道院の外に飛び出していったマザー・テレサ。親を失った子供たち、ハンセン病患者、路上で死を待つだけの老人たち。その苦しみの中に神の姿を見出した彼女は、貧困にあえぎ、飢えにさいなまれる人々と共に暮らし、彼らの心に希望の灯をともす活動を始める。その行く手に立ちはだかるさまざまな困難。教会からの非難、地元住民の反発、役所の圧力、寄付金と養子縁組をめぐる疑惑。東欧からやって来たひとりの小さな女性が立ち向かうには、あまりにも高く、険しい現実の壁。

 しかし、自らが神の手に動かされていると信じるマザー・テレサは、ひとつひとつの問題に真正面から取り組み、忍耐と努力を重ねながら、熱い思いで世界を変えていく。「私たちの行いは大河の一滴にすぎない。でも、何もしなければ、その一滴も生まれない」。強固な信念を胸に、宗教の壁を越えた救済活動の開拓者の道を、まっすぐに突き進んだマザー・テレサ。彼女の50年におよぶ軌跡をみつめた本作は、単なる伝説の聖女ではなく、純粋な志を抱いてアグレッシブに道を切り開いていった一人の女性としてのマザー・テレサの生きざまを、鮮やかに浮かびあがらせていく。

 そんな力強さを湛えたドラマの中で、ひときわ輝きを放つ主演のオリビア・ハッセー。「彼女がいなければ、たとえ仮想の世界であっても、私たちの間に蘇ったマザー・テレサを表現することはできなかっただろう」と、監督のファブリッツィオ・コスタが認める大熱演を見せる彼女は、純粋で粘り強く、何事にもシンプルであることをモットーに生きたマザー・テレサの人間像を、パーフェクトに再現。化粧ともドレスとも無縁のマザー・テレサの内面から湧きたつ本物の美が、オーラとなって輝き出てくる演技で、私たちを圧倒する。




1946年、インドのカルカッタ。
カトリックの女子校で教鞭をとっていたマザー・テレサは、
イスラム教徒とヒンズー教徒の抗争に巻き込まれて負傷した者を校内に入れて手当したことから、
修道院長と対立。ダージリンへの転任命令を受ける。


 その途上で、行き倒れになった男と出会い、「私は渇く」彼の言葉の中に神の声を見出すマザー・テレサ。命令に背いてカルカッタに舞い戻った彼女は、「私の居場所は修道院の中ではありません。最も貧しい人々のところです」と言って、修道会に院外活動の許可を求める。得られた回答は、「院外活動をしたいなら一市民に戻れ」というものだったが、マザー・テレサの熱意を汲んだエクセム神父(ミハエル・メンドル)の口添えによって、決定はバチカンの手にゆだねられることになった。「これが神の望みであれば、必ず実現する」。そう信じるマザー・テレサは、パトナで医療と薬学の実地訓練を受けながら、バチカンからの返事をじっと待ち続けた。

 やがてバチカンから送られてきたのは、院外活動の許可を伝える手紙だった。晴れて町へ出ることを許されたマザー・テレサは、新しい修道服である白い木綿のサリーに身を包み、貧困にあえぐ人々が住むストリートでの活動を開始した。子供たちに配る食糧を手に入れるため、市場で物乞い同然のことをするマザー・テレサの姿に、眉をひそめる修道院長。しかし、いっぽうには、マザー・テレサの活動を応援する者たちもいた。ヴァージニア(イングリッド・ルビオ)をはじめとするかつての教え子たちだ。彼女たちボランティアの手を借りながら、マザー・テレサは、病人や孤児の世話をするための施設をコツコツと作り上げていく。

 4年後。修道会に属しながらの活動に限界を感じたマザー・テレサは、新しい教団<神の愛の宣教者会>を作りたいと、エクセム神父に申し出る。それに応じてバチカンからやって来たのが、セラーノ神父(セバスティアーノ・ソンマ)だった。カルカッタに到着した彼は、さっそくマザー・テレサに会おうとするが、当のマザー・テレサの前には、すぐに解決しなければならない難問が山積みの状態だった。寺院を改装して開設した<死を待つ者の家>に対する地元住民の猛抗議。孤児院の違法性を主張し、閉鎖を求める役所の命令。そのひとつひとつに、誠意と情熱で立ち向かっていくマザー・テレサ。しかし、それを知らないセラーノ神父は、なかなか自分に会おうとしない彼女を尊大な人間だと思いこみ、バチカンに否定的な報告を送ろうとする。が、実際、彼の前に現れたマザー・テレサは、尊大さのかけらもない人物だった。「私は、神が手に持つペンにすぎないのです」と語るマザー・テレサの無私無欲な姿勢に、深い感銘を受けるセラーノ神父。彼は、<神の愛の宣教者会>の設立を後押ししたばかりでなく、自らもカルカッタにとどまり、マザー・テレサのかたわらで同じ道を歩もうと決意する。


キャスト_ オリビア・ハッセー(マザー・テレサ)、セバスティアーノ・ソマ(セラーノ神父)、ラウラ・モランテ(マザー・ドゥ・スナークル)、ミハエル・メンドル(ヴァン・エクセム)、イングリッド・ルビオ(ヴァージニア/シスター・アグネス)、エミリー・ハミルトン(アンナ)
監 督_ ファブリッツィオ・コスタ
公 開_ 今夏、日比谷シャンテシネほかにてロードショー
公式サイト_ http://www.motherteresa.jp/


_Movie Information Dondetch_