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![]() 雄大なアルプスの山を、元気いっぱいに駆け回るハイジ。日本では、高畑勲監督のアニメの主人公としても人気の高い彼女は、1880年にヨハンナ・スピリの小説のヒロインとして誕生して以来、世界中の人々から愛され続けてきた永遠の少女だ。 ![]() 不運な孤児の境遇にありながら、まっすぐな心を持つ少女に成長したハイジ。何事にもへこたれないポジティブさと、人を思いやる優しさにあふれた彼女は、触れ合う人々の心に希望の光を投げかける真夏の太陽のような存在だ。人里離れたアルプスの山奥で、他人との接触を拒み、頑なに心を閉ざして生きてきた祖父のアルムおんじ。フランクフルトの広大な屋敷で、孤独な生活を送ってきた足の不自由な少女クララ。食べ物にも事欠く貧しさの中で、つつましく暮らすペーターの盲目の祖母。それぞれ暗く閉ざされた世界のなかで、夢見ることさえも忘れかけていた彼らは、ハイジと出会い、ハイジからひたむきに愛されることによって、前向きに生きる勇気を与えられる。その触れ合いのエピソードを、これほどまで丹念に、慈しむように描き上げた「アルプスの少女」の実写映画は、過去にはなかった。まさに決定版ともいうべき本作には、懐かしさと優しさと、とびきりの感動が、たっぷり詰め込まれているのだ。 ハイジを演じるのは、デビュー作『イン・アメリカ/三つの小さな願いごと』であどけなさを光らせ、世界中の観客を魅了したエマ・ボルジャー。ハリウッドの子役とはひと味違う素朴な愛らしさが魅力の彼女は、ケナゲでオテンバなハイジそのもの。驚くほど自然で表情豊かな彼女の演技には、劇中何度も笑わされ、何度も泣かされてしまう。そんな小さな大女優を相手に、ハイジの祖父アルムおんじを演じるのは、『ペレ』でアカデミー賞候補になった名優のマックス・フォン・シドー。最初はハイジを預かることを拒否していたアルムおんじが、いつしかハイジの虜となり、誰かのために生きたいと願う人間に生まれ変わっていく過程を、細やかに表現する彼の名演は、ドラマの感動の要だ。さらに、ハイジの宿敵ともいえるロッテンマイヤー夫人には、『トーク・トゥ・ハー』のジェラルディン・チャップリンが扮し、自分を変えることができない女の哀しさを巧みに表現する。 脚本は、英アカデミー賞を受賞した「Goodnight, Mister Tom」を手がけるなど、児童文学の脚色に定評があるブライアン・フィンチ。監督は、「コナン・ドイルの事件簿」や「第一容疑者」など、イギリスの人気TVシリーズを手がけてきたポール・マーカス。「原作の最も優れた部分をスsトーリーから抽出し、今の時代感覚にそぐわないものは取り除く」ことをコンセプトにこの映画を作り上げていったというフィンチとマーカスは、原作に織り込まれた普遍性をクローズ・アップ。アルプスの山をのぞむ藁のベッドや、祖父の手作りのソリに最高の贅沢を見出すハイジの姿を通して、本当の豊かさとは何か、本当の幸福とは何かというテーマを、見る者の胸に訴えかけてくる。そのテーマをよりいっそう強く印象づけるスペクタクルな山の映像も、本作の大きな見どころだ。ハイジのキャラクターそのままの無垢な大自然の景観を世界中に探し求めたスタッフは、スロベニアのジュリア・アルプスで6週間におよぶロケを決行。原作を読んだ誰もが心に思い描き、憧れを抱いた「ハイジのアルプス」を、見事に再現している。 周囲を固めるのは、『トラフィック』の名脇役ルイス・ガスマン、人気TVシリーズ『シックス・フィート・アンダー』若手スターのフレディ・ロドリゲス、硬軟幅広い役柄をこなす『ダンサー・イン・ザ・ダーク』『グリーン・マイル』の名優デイヴィッド・モース、『ハムナプトラ』シリーズのオデッド・フェールなど、フレッシュなヤング・スターとヴェテラン俳優たち。 監督のジョン・ゲイティンズは本作が初監督、今まで『陽だまりのグラウンド』『コーチ・カーター』の脚本を執筆している。本作でも脚本を書き下ろし、そのストーリー・テラーぶりを遺憾なく発揮して、観客を心に染み入る感動へと導いている。初監督を支えるのは厚いスタッフ陣。撮影監督にジョン・ヒューストン監督作『ザ・デッド/「ダブリン市民」より』でインディペンデント・スピリット賞ノミネートのフレッド・マーフィ。音楽は『パッション』でアカデミー賞候補となったジョン・デブニー。編集に『インサイダー』でアカデミー賞候補となったデイヴィッド・ローゼンブルーム。プロダクション・デザイナーに『この胸のときめき』のブレント・トーマス。衣装デザイナーに『モンタナの風に抱かれて』『ブルース・オールマイティ』のジュディ・ラスキン・ハウウェル。キャスティングは『クラッシュ』でキャスティング組合賞を受賞したサラ・フィン。一つ一つの丁寧な仕事が鑑賞後の余韻を産み出している。 ![]() 赤ちゃんのころに両親を亡くし、孤児になってしまったハイジ(エマ・ボルジャー)。母の妹のデーテ叔母さん(ポーリン・マクリン)に引き取られた彼女は、不幸な境遇にも負けず、真夏の太陽のように明るく活発な少女に成長した。 ![]() その噂が本当に思えるくらい、アルムおんじは怖い人に見えた。デーテとハイジが何の前触れもなく訪ねて来たことに怒った彼は、ふたりを追い返そうとして、小屋の扉を固く閉ざしてしまう。しかし、デーテに置き去りにされ、途方に暮れるハイジの姿を見た彼は、ハイジを小屋の中に招き入れると、食事を与えてやった。そんな祖父が、本当は優しい人間であることを敏感に感じ取ったハイジは、窓からアルプスの山々が見渡せるロフトの藁のベッドに横になると、安心して眠りについた。 翌日から、ハイジのアルプスでの生活が始まった。昼間は、山羊飼いのペーター(サミュエル・フレンド)と一緒に放牧場へ出かけ、夜は、祖父のチーズ作りを手伝う日々。大自然と触れ合い、そこからさまざまなことを学べる生活が、好奇心旺盛なハイジには楽しくて仕方がない。そして、そんなハイジとの暮らしは、いつしかアルムおんじにとっても、かけがえのないものになっていった。ハイジのために椅子を手作りした彼は、「ありがとう」と言って抱きついてきたハイジを、力いっぱい抱きしめる。 冬になり、クリスマスの日がやってきた。ありあわせの小物でクリスマスの飾りつけを作り、祖父を喜ばせたハイジは、お返しに手作りのソリをプレゼントされる。大喜びのハイジは、さっそくソリに乗って、初雪が降って以来会っていなかったペーターの家を訪ねた。ペーターの一家は、母のブリギッテ(キャロライン・ペッグ)と目の不自由なおばあさん(ジェシカ・ジェームズ)の3人暮らし。一家は食べ物にも事欠くほど貧しく、家はそこら中がきしんでボロボロだ。そのことをハイジから聞かされたアルムおんじは、得意の大工仕事の腕を発揮して、ペーターの家を修理してやった。 雪解けと共にめぐってきた春。アルムおんじと共にふもとの村へ降りたハイジは、チーズ売りの仕事を手伝い、りっぱに看板娘の役目を果たす。そんなある日、デーテ叔母さんが再び小屋にやって来た。彼女の目的は、フランクフルトに住む足の不自由な少女の遊び相手として、ハイジを連れ帰ること。もちろんアルムおんじは大反対だ。だが、「冬のあいだハイジを学校へ通わせなかったことを裁判所に訴え出る」とデーテに脅されたことから、アルムおんじは、仕方なくハイジを手放すことに同意する。いっぽう、ここに残ればアルムおんじが監獄行きになると聞かされたハイジも、デーテに従うしか道はなかった。 ![]() ハイジとクララは、すぐに姉妹のように仲良くなったが、アルプスでのびのびと暮らしてきたハイジと、規律を重んじる厳格なロッテンマイヤー夫人の関係は、日を追うごとに悪くなるばかりだった。そんなある日、クララの祖母のゼーゼマン夫人(ダイアナ・リグ)が、屋敷にやって来る。ロッテンマイヤー夫人とは正反対に、ハイジの天真爛漫な性格に魅せられた彼女は、クララと分け隔て無くハイジをかわいがり、これまで学校へ行ったことのなかったハイジに文字の読み書きを教えてやる。利発なハイジはたちまち文字を覚え、読書の楽しみを知った。が、ゼーゼマン夫人が屋敷を去ると同時に、ハイジは、以前よりも厳しさを増したロッテンマイヤー夫人の意地悪に耐えなくてはならなくなる。ペーターのおばあさんにあげようと思って大切にとっておいた白パンを、ロッテンマイヤー夫人に捨てさせられたとき、ハイジの目からは思わず涙がこぼれた。 その辛い日々の中で、食べ物も喉に通らなくなってしまったハイジは、ついに夢中歩行を繰り返すようになってしまう。医師のクラッセン先生(オリヴァー・フォード・デイヴィス)が下した診断は、ホームシック。病気を治すには、祖父のもとに帰すしかない。そのクラッセン先生の言葉をゼーゼマン氏が聞き入れたことから、ハイジはようやくアルプスに帰れることになった。 クララと再会を約束し、アルプスへ戻ったハイジは、さっそくペーターの家を訪ね、おばあさんに柔らかな白パンをプレゼントした。おばあさんは、プレゼントよりも何よりも、ハイジが戻ってきたことに嬉し涙を光らせる。しかし、アルムおんじの態度は違っていた。ハイジが去って以来、すさんだ生活を送っていた彼は、せっかく戻ってきたハイジを小屋から閉め出してしまったのだ。そんな冷たい仕打ちを受けてもなお、ハイジの祖父に対する愛は変わらなかった。心配して訪ねてきたペーターに、ハイジは言う。「私がおじいさんを傷つけてしまったの。何があっても出て行くんじゃなかったわ」。 その言葉を耳にしたアルムおんじは、自分が間違っていたことを悟る。彼は、ハイジを家に入れてやると、「ありがとう。出て行ってごめんね」と言うハイジをしっかりと両腕に抱きしめた。 (C)Surefire 2005
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