_ クリムト


19世紀末、ウィーン。時代に嫉妬されたひとりの天才画家がいた。

 「エロス」と「タナトス(死)」、クリムトが描いた究極の愛
 19世紀末、オーストリア。時代より遥かに先を行ったひとりの天才画家がいた。──グスタフ・クリムト。彼の作品からは「エロス」が匂いたっている。官能と情熱に満ち溢れた世界、あでやかで豊かな色彩、描き続けた「ファム=ファタル(宿命の女)」...。キャンバスの中の女性はなまなましいほどの肉感をたたえながら、恍惚の表情を浮かべている。「モデルに触れないと描けない」画家は、触れることで対象から何を導き取り、感じ、絵筆を執っていたのか。

当時、ウィーンには彼の子どもが30人もいたという。
 1900年パリ万国博覧会において「哲学」で金賞を受賞し、仏アール・ヌーヴォーの先駆者となったクリムトだったが、パリでの賛辞は故郷ウィーンでは"ウィーン文化全体に泥を塗るひどいスキャンダル"と罵倒されてしまう。
 それは、先進的なパリとは対照的に、保守的なウィーンではタブーとされていた裸体、妊婦、性描写をこともなげに描いたクリムトに対する、時代からの嫉妬だった...。

  クリムトと旅する19世紀末ウィーン文化
 クリムトに扮するのはその演技に絶大な信頼を寄せられているジョン・マルコヴィッチ。久々の主演で夢と現(うつつ)の狭間に身を置いた画家の危うい精神世界を、見事に演じきっている。監督・脚本は『見出された時─「失われた時を求めて」より?』のラウル・ルイス。鬼才との呼び声高い独特の演出、寓意に満ちたカメラワークはまるでクリムトが描いた絵のように煌(きら)めきを放っている。

 また、クリムト本人がデザインを手がけた衣装の再現や『クリムト』のために作られた100点を超える衣装の数々、そして19世紀末のカフェハウスのインテリアなど、細部にいたるまで当時を意識した世界観はまさに美の洪水。クリムトを通して私たちを絢爛豪華な世紀末のウィーンへと誘(いざな)ってくれる。




1918年。芸術の都ウィーンの栄光は、まさに終焉を迎えようとしていた。

 そして、絵画に新たな潮流を生み出した稀代の画家、グスタフ・クリムト(ジョン・マルコヴィッチ)もまた、命の灯火を消そうとしていた。脳卒中で倒れ病院に運ばれたクリムト。しかし彼を見舞うのは愛弟子のエゴン・シーレ(ニコライ・キンスキー)ただ一人。発作に苦しみ、朦朧とした意識の中、クリムトの目には、栄光と挫折の人生がよみがえる。まるで寓話に満ちた彼の絵のように......。

 1900年。保守的なウィーンでは彼の描く裸の女性がスキャンダルとなっていた。対照的に、先進的なパリでは絶賛され、パリ万博で金賞を受賞する。

 その会場でスクリーンに映る美しい女性レア(サフラン・バロウズ)に心奪われたクリムト。彼は嫉妬する恋人ミディ(ヴェロニカ・フェレ)をおいたまま、文化省の書記官(スティーヴン・ディレイン)の計らいで、レアと密会を果たし、彼女の肖像画の依頼を受ける。

 ウィーンに戻ったクリムトは、大臣から助成金を打ち切られたことを聞き、ますます反抗的になる。そんなとき、クリムトのモデルをしていたミッツィ(アグライア・シスコヴィチ)が彼の子どもを産んだことを聞き、会いに行く。彼にはモデルたちとの間に、すでにたくさんの子どもがいたのだ。恋人ミディにプラトニックな愛を求め、モデルたちに肉体的な愛を求めるクリムト。しかし彼の魂が求めるのは、宿命の女(ファム・ファタル)レアだけ。

 書記官にレアと会うことを促され、彼女の居場所を教えられる。しかし、周囲の人には書記官の姿は見えず、クリムトの独り言にしか見えない。そう、謎の書記官はクリムトのもう一人の自分、心の声だったのだ。心の声に導かれるままに、彼はレアの庇護者である公爵(ポール・ヒルトン)に会いに行く。しかしレアは死んだと告げる公爵。虚構と現実が入り交じり、深まるパラノイア。自分の存在さえ儚(はかな)くなる──。レアを求め、雪の中クリムトはアトリエに戻るのだが...。

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キャスト_ クリムト : ジョン・マルコヴィッチ/ミディ(エミーリエ・フレーゲ) : ヴェロニカ・フェレ/レア・デ・カストロ : サフラン・バロウズ/エゴン・シーレ : ニコライ・キンスキー/書記官 : スティーヴン・ディレイン/セレナ・レデラー : サンドラ・チェッカレッリ
監 督_ ラウル・ルイス
公 開_ 秋、Bunkamuraル・シネマ、シネスイッチ銀座ほか全国順次ロードショー
公式サイト_ www.klimt-movie.com


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